black suger
日々は甘いことも苦いことも溢れている。
それでも、甘みを感じずに時として、甘いものが欲しくなるのは心の甘えが出ているのではないかとすら感じる。
私はここ最近起こった出来事がどうしても自分の甘えが原因だと気づいていた。
「惨めである」
私の周りの人はよくこう言う。
人は相手のことを散々けなそうと、愛そうと、信じようと、相手の自由であり、すべて相手の責任ではなく、自分の責任である。
それであっても、この「惨め」という言葉はよく似合うのは私なのかもしれない。
いや、似合うのは私だけでいいのかもしれない。
だた、単純で、自分に甘い、願望である。
私はそれでいて、綺麗に見られるように努力した。
「それはそれは無駄な努力で」と心の中で皮肉に笑う私も存在する。
もちろん周囲は「惨め」と言い続ける。
変わらないのである。
他人は他人。自分は自分。というけれど、
それは単なる暴論である。
人は人との関わりの中でしか生きれない。
人間というものは人との関わりを切ってして生きることはできない、生きていた存在を証明することができないのである。
甘くない世界。
それでいて、人は時として、優しさという技を出す。自分のことを犠牲にして。
本能でできているときもあるだろう。
その優しさがどのように形成されているのかはさておき、
私はどんな優しさにも救われてきた。
相手にとって得でしかない優しさであっても、私はそれですら愛せた。
優しさを心の余裕のない人が出すことは難しい。
人は相手のことをどう思っているか推し量り、強いては相手に尋ねることしかできない。
聞いたことの真偽はわからない。
それでも、何かしらの手を差し伸べることができる人は、優しさを持つ勇者に思える。
私は複数の勇者たちと一瞬にして友達になる。
このような言い方をすると、何か誤解が生まれるかもしれないから訂正しよう。
私は初めて出会って、挨拶をし、会話を進めてくれる人とすぐに溶け合うことができる。
アイスブレイクが得意なのである。
それは人との関わりがどんな時でも否めないことを知っていたからだ。
勇者たちは私に甘い優しさを一つまみずつ与えてくれるのだ。
溜まればどうなるのかって?
もちろん心にふりかけて心の糖分摂取に努める。
しっかり吸収するにはかなりの時間を有するのは惨めではあるが...
惨めな甘さを感じることは一度もないと思っていた。
私は容姿も中身もよくないと自負している。
これは周囲から言われる前からなんとなく理解していた。
散々言われることに慣れているが、私は初めて黒い惨めな甘さに出会うことになったのである。
汚い。
暗い。
深い場所。
私はある男と出会った。
その男はどこからか吹く風に黒髪をなびかせていた。
暗いながらも顔のパーツがはっきりしているように見えた。
綺麗だった。
それでいて、彼は残酷なことを口にするのだ。
「君の名前は?」
「シュラ」
「綺麗な名前だね」
「どうもありがとう」
「ここどこだかわかる?」
「いいえ、あなたはわかっているの?」
「ん、わかっているよ」
「ここはどこなの?」
「甘い塊の中」
「...え?」
「僕は君の中にずっといたが、君は気づいてくれなかった。とても残念だ。」
「どういう...」
「シュラ、君は甘い言葉ばかりを貯めて自分の気持ちに向き合うことをしなかった。それがこれの結果だ。自ら心の整理をしようとせず、侮辱されることにも向き合おうとしなかった。人は傷つけあうこともあるが、相手が真実を述べているかもしれない。自分を疑うことはしなかった。それは、自分に甘いのではないのか。」
「わかっていて。。それは...」
「シュラ。君が本当に怯えているのはきっと僕だね?」
「あなたは誰なの?」
「僕は本当の君の姿だよ。シュラ。君は自分自身に向き合うことなく、綺麗になろうと努力をしてきただろう。『女』として。周囲は君のことを『惨め』という言葉で表現していただろう。それは君が『女』ではないことを暗に示唆していたのだろう。」
「私は女よ?」
「いいや、君は僕なんだから。もう、誤解しないでほしいよ。君は『僕』なんだよ。」
「あなたのように私は美しくないわ。」
「君はこれを機会に変わっていく。これは強制的にではなく、風のように時間が流れて、そうなってゆく。鏡をふと見ると、いずれは、僕の姿になるんだ。君は『惨め』ではなくなる。」
「それはいいことなの?私は私なのに。」
「シュラはシュラだよ。だって、僕は君だよ。君は僕だから。そう、だからもう、甘い言葉を心に蓄積することは控えめにして、厳しい意見にも耳を澄ませてごらん。きっと、君が、この機会を無駄にしないことは、心の中にいる僕から、そう、シュラ自身から、保証するよ。」
「あなたは見守ってくれていたの?」
「見ていたよ、だが途中で甘いものに囲まれちまって、見えなくなってしまった。もう居心地も最悪だったものだから、ついついシュラに声をかけてしまったってわけさ。僕は君を信じているよ。君は僕。君は綺麗だよ。シュラ。」
しばらくして、目が覚めた。
彼は甘い黒い場所に閉じ込められてしまっていた。
それはそれは悲しいこと。
これこそ、惨めと言わざるを得ない。
私は彼の言っていたことを忘れずに自分に向き合うことにした。
いや、
私ではなく、僕である。